緑に囲まれた、神殿。
大気汚染が広がる中、そこだけは護られているように神聖な空気を保っている。
神の庭と呼ばれるそこは、常に清浄で、邪は取り除かれていなければならない。
注連縄のかけられた御神木、鳴り響く鈴の音。
それらは、神々を奉るもの。

そんな雰囲気の広がる中で、ブルーは木の枝に座ってある所を見ていた。

社の中だ。

今日、この社では一組の神前結婚式を挙げているのだ。
その様子を、先程からブルーは見ていた。

社の中には、結婚の神をして奉られているフィシスが笑顔で鎮座している。
フィシスは毎日何組かの結婚式を見守り、祝福するのだ。
その様子を笑顔で見つめるブルー。

今日も、新たな夫婦が生まれた。
その夫婦の子らは、国を豊かにしてくれるだろう。
神として、新たな絆の誕生、新たな命の可能性はとても嬉しいことだった。









「大国主神さま、こちらにいらしたのですか?」

ブルーの座る木の下に、ふわりと少女が降りる。

「ジョミー、そんな堅苦しい名で呼ばないでくれたまえ。ブルー、と呼んでくれないかい?」
「…大国主神さま、それは…」

少し眉尻を下げて戸惑うジョミーに、ブルーは苦笑しながらひょいひょい、と手招きをした。
ジョミーは大人しくそれに従い、枝の上を軽々と跳んでゆく。
そしてブルーの座る枝の少し下にちょこんと腰掛けた。

美しい着物に身を包まれたジョミーは、いつもながらにとても可愛らしい。
陽の光がきらめく金色の髪には、ブルーが贈った簪が光っている。

「…つけて、くれているんだね」
「はい!大国主神さまから頂いた簪ですから!」

ふわりと笑うジョミーの笑顔はとても嬉しい。
だが、これは大国主神からの“授け物”ではない。
ブルーからの“贈り物”なのだ。
その辺りを理解しているのか、いないのか。

ジョミーは屈託なく微笑む。
まだ生まれて数百年も経たないジョミーは、ブルーに比べてとても幼い。
精神が幼いせいなのか、ジョミーは未だ少女の風貌をしている。
生まれた頃から見守っていた彼女を、ブルーは溺愛していた。

「ジョミー、ご覧。今日も婚儀が行われているよ。二人とも、とても幸せそうだ。」
「…………はい。」
「…ジョミー?これは、とても喜ばしいことだよ?」
「っ申し訳ありません!!」

ジョミーの声が心なし沈んだように思えて、ブルーは首を傾げた。
するとジョミーは咎められたと思ったのか、枝に両手をつけて頭を垂れたのだ。
いきなりの謝罪に驚いて、ブルーはジョミーの手首を掴んで引っ張り、頭を上げさせた。



敬愛する大国主神に聞きたいことがあって、ジョミーはずっと探していた。
そしてやっと見つけた神の視線の先。
そこには結婚の神、フィシスがいた。
柔らかい視線と微笑みを向けられるフィシスが、うらやましい。

ブルーとフィシスは、国が誕生した頃からの友人だと聞く。
彼らから何千年も後に生まれたジョミーには、到底手の届かない場所に、二人はいる。
そんな状況に、ジョミーはいつも疎外感と寂しさを感じていた。
ジョミーが後に生まれたという事実が変わらない限り、この寂しさは払拭できないだろう。

ジョミーはブルーに笑顔を向けられるだけでとても幸せな気持ちになれた。
それこそ疎外感などどうでもよくなってしまうくらいに。
だからこそ、その笑顔を他人に向けられると胸が痛むのだ。

ブルーが婚儀を嬉しそうに見ていたことが、フィシスを見ていたように見えて。
ジョミーはつい沈んだ声を出してしまった。

そして言われた言葉に、ジョミーはハッと我に帰り、慌てて頭を下げた。
大国主神に、なんという失礼なことをしてしまったのだろうか。
どんな罰が下されようと、反論は出来ない。
そう思って、祈るような思いで頭を下げていた。

だが、今のこの状況は何なのだろう。


「ジョミー…咎めているわけじゃないんだ。だから…そんなに簡単に僕に頭を垂れないでくれ…」

ブルーの声が、頭上から聞こえた。
背中には温もりが、頬には静かな鼓動が。
何よりも、ブルーの神気に包み込まれているのだ。
かぁぁと頬が火照ってゆくのが分かった。

「頼むから、僕にそんなことしないでくれ…」
「あ、ぅ、はい…」

緊張のあまり、小さい声で返事することしか出来なかった。
ブルーはジョミーの返事に気をよくしたのか、ジョミーを抱いたまま木にもたれた。

「ほら、ジョミー…あの二人に光が見えるだろう?」

社の中にいる男女を見ると、二人の間には光の玉が浮いていた。

「あれは二人の間に生まれる命なんだよ。すでに、兆しが見えている。」
「綺麗…」

きらきらと光るそれは、とても美しい。
ほぅっと溜息を吐いてそれを見るジョミーに、ブルーは思わず見惚れてしまった。
そして、気付いたら手を伸ばして。
唇を、奪っていた。

「ッ…………!?」

びくりと、腕の中のジョミーが硬直するのが分かった。
だが、放すつもりもない。
腕の中から逃げてしまわないように、包み込むように抱きしめて口付けを施した。

「…っふ、…ん…」

何度も角度を変えて貪ると、ジョミーの目尻から涙が零れた。
唇を離して、自らの唇で啄ばむようにして涙を拭った。

ぱちりぱちりと、新緑の瞳が瞬きを繰り返す。

薄く開いた唇が光っているのを見て、ブルーはぺろりとジョミーの唇を舐めた。
瞬間、ぼんと音がしそうなくらい真っ赤になったジョミーは、暴れだした。

「ジョミー、暴れないで。」
「やだ、やだ…!」
「ジョミー!」

ぎゅっと、動きを戒めるために強く抱きしめた。

「そのままでいいから、聞いて欲しい。」
「…………?」
「ジョミー、君を僕の神殿へ、連れて行く。」

これは、もう決定事項だ。
ジョミーに反論の余地は与えない。

「大国主神さま…?」
「君が欲しいんだ。誰にも渡したくない。君が生まれて数百年間、見守ってきていたけど…限界だ。君を、僕のものにする。」

あまりに直球な告白に、ジョミーは何も言えずにブルーを見た。
真剣な表情の彼に、反抗など出来るはずがない。
頭の隅で、大国主神のものになるとはどういうことなのだろう、と考えていた。

すると、ブルーはジョミーを抱きかかえたまま、枝からふわりと跳んだ。
婚儀を終えたはずの社から、清廉な鈴の音が聞こえて。
ブルーはこれからの出来事を想い、微笑んだ。














     
ブルーって、優しそうに見えて意外に人の話を聞かなさそうです。。。
強引なところがあるかなぁって思います^^

今日は、叔父の結婚式でございました。
神前でした^^
祝詞とか玉串とか榊とか大好きだからすっごく楽しかった^^
そんなわけで、日本神話な感じのブルジョミでした!

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