不器用なあなた 2
「ブ、ルー…」
コツリコツリと、ゆっくりと足音が聞こえる。
そして背後に立たれたのが分かった。
だが、どうしても振り向くことが出来ない。
ジョミーはブルーの冷たい表情を見るのが怖いのだ。
あの綺麗な紅玉で、冷ややかに見られるのが嫌で嫌で仕方がない。
「僕は、部屋に戻れと言ったはずだ」
「………ッ」
怒りを含んだ声色に、ジョミーは唇を噛む。
自分が嫌われているのか、そうでないのかも分からない。
引っ込んでいたはずの涙が溢れそうになり、慌てて下を向いた。
だが、それは逆効果だったようで。
堤防が決壊したかのように溢れてしまった。
ぽたぽたと涙が滴り落ちて紅色のマントに染みを作る。
嗚咽を漏らさないでいれることが奇跡だった。
「ジョミー…ッ!?」
涙を流しているジョミーに相当驚いたのか、ブルーはジョミーの肩を掴んだまま固まってしまった。
ブルーからすれば、何故ジョミーが泣いているのか分からないのだろう。
まるで、叱られてすぐに泣いてしまう子供のようだった。
でも、そうさせているのはブルー本人で。
嫌いなら、そう言って欲しい。邪魔なら、連れて来なければよかったんだ。
(どうして、僕ばっかりこんな―――)
「ジョミー、どうし…」
「さわ、るな…!」
バシン――――!
感情が昂ぶって、思わずサイオンでブルーの手を弾いてしまった。
ガタリと立ち上がり振り向くと、目尻に溜まっていた涙が散り、床に落ちて。
一瞬だけ、ひどく傷付いたようなブルーの表情が見えた。
それにも何だか腹が立ってしまったのだ。
これでは、まるで自分が悪いみたいじゃないか。
「………ジョミー、もう部屋に戻りなさい」
「…っ…煩い!僕に命令するな!!!」
ジョミーが涙を流しても、あくまで態度を変えないブルーに苛ついて。
そこまで徹底して自分に冷たい態度をとるとは思わなかった。
心のどこかで、そんなことはないと思っていた。
そう信じたかったのだ。
でも。
(もう、いい――――!)
「ブルーの馬鹿!!!もういい!だいっ嫌いだ!!!!二度と僕に話しかけるな!!!!」
「ジョミー!」
ぎっとブルーを睨むと、ジョミーは来たとき同様、テレポートでどこかへ行ってしまった。
じっと見ていたフィシスは思わず立ち上がった。
残されたブルーは弾かれたせいで血を流す手をギュッと握って目を瞑って。
痛みを堪えているような、辛そうな表情だった。
だが、盲目のフィシスにはブルーの心が読めない以上、彼の心情を知る術はなく。
ブルーの表情に気付くことが出来なかった。
「…ソルジャー…」
「……邪魔をしてすまなかったね…」
固い声でそう言ったブルーは、静かな天体の間に足音を響かせて去っていった。
(ブルーの馬鹿、最悪、なんなんだよ…!)
今度こそ無事に部屋に辿り着いたジョミーは、ベッドに顔を埋めた。
とめどなく溢れる涙は、止まりそうもない。
枕に押し付けるように涙を流して。
悲しくて悲しくてしょうがない。
僕が必要だと言ってくれたのは、嘘だったのか。
そう考えて、気付いた。
「……ミュウたちの未来に、必要…なだけ、だったんだ…」
かばりと起き上がって、呆然と呟いた。
どうしてこんなに簡単なことに気付かなかったんだろう。
必要としていたのは、自分のサイオンの力で。
自分自身ではなかったのだ。
「〜〜〜〜っ…!!」
新たな涙がぶわりと溢れて、ジョミーは再び顔を埋めた。
「僕はっ…こんな、に…好きなのに……!」
恋が壊れるのが、こんなに容易いことだなんて。
ジョミーは張り裂けそうな胸の痛みに、更に涙を流した。
そしてその日から、ブルーとジョミーが行動を共にすることはなくなった。
互いに擦れ違っても目も合わせず、通り過ぎるだけ。
ブルーは今まで通り無表情のままなのだが、ジョミーの方はそうは行かなかった。
ブルーを見かけるたびに辛そうな表情をするのだ。
その為に、艦内ではブルーがジョミーがふったのだとまことしやかに囁かれていた。
は、破局…!?
ブルーは一体、何を考えているのでしょうか…!